【後編】鈴木一志(日本フィルハーモニー交響楽団首席ファゴット奏者)

音楽と言葉

昨年、鈴木一志氏(日本フィルハーモニー交響楽団首席ファゴット奏者)が、モーツァルト作曲 ファゴット協奏曲を演奏されました。ソロをつとめた鈴木氏へ演奏会後のお気持ちをうかがいました。今回はその後編です。

前編を読む

僕が初めてモーツァルトのファゴット協奏曲に取り組んだのが、東京音楽大学付属高等学校に入学してからです。最終的に、ファゴット協奏曲の第一楽章で付属高校の卒業演奏会に出演しました。付属高校の一年生のときに、まず第三楽章を勉強しました。高校の在学中に、三楽章、二楽章、そして卒業演奏で一楽章の順でやりましたから、あれからもう40年以上もたってしまいました。まだ僕が、15歳とかそのくらいのときからですね。

モーツアルトの協奏曲が終わった後に、アンコールとして父との思い出の曲を演奏させていただきました。小林研一郎先生が特別にピアノ伴奏をしてくださいました。小林研一郎先生には、本当に感謝しております。実は、今回の演奏会が決まったころ、随分前から小林研一郎先生と「モーツァルトの後に折角だからアンコールで何か一曲披露しましょう!」とお互いに打ち合わせだけはしていました。曲目はイタリアのカンツォーネ「カタリ・カタリ」です。

演奏会当日のリハーサルが終わり、小林研一郎先生の楽屋で皆には分からないようにこっそりと「カタリ・カタリ」を一回だけ合わせました。先生の楽屋にはグランドピアノがありましたので。一回だけ通して「じゃあ、内緒にしておきましょうねっ!」と言って本番にそなえていました。少しすると、ホール開場前のステージ上で小林研一郎先生が正面にセッティングされているピアノでアンコール曲「カタリ・カタリ」の伴奏をさらっていらっしゃる!楽屋のモニターからも、それがはっきりと聴こえてきました。「あ、この曲、今日のアンコールで演奏するんだね」って皆に分かってしまって(笑)!オーケストラのメンバーや関係者スタッフには内緒にして、サプライズとして演奏したかったのですが…。

今回アンコールで「カタリ・カタリ」というイタリアのカンツォーネを選んだのは、父への感謝の気持ちが含まれています。まだ、子供のころ、よく父のピアノ伴奏をしていました。そのころは正直「また、伴奏をするのかぁ…」という気持ちがありました。でも、今ふり返れば、父の伴奏をすることによって音楽や歌が自然と身についたと感じています。父の伴奏をすることで、自分の中に音楽の土台のようなものが出来たことは確かです。小学校の頃からずっとやってきましたから。だから父は「歌を教えてくれた人」なのです。そのような経験をさせてくれた父には、感謝の想いでいっぱいです。

モーツァルトの演奏が終わって、小林研一郎先生がお客様にお話しするタイミングがありました。そこで小林先生は「そういえば、鈴木さんのお父様は東京芸術大学の声楽科を卒業されたのですよね」とおっしゃるので、僕も「そうなんです、父は芸大の二期生でバリトンの立川清登さんと同級生でした!」なんてお話ししたら、小林先生が「昔、お父様とはどんな曲をやっていたの?」って又おっしゃるから、「まぁ、そうですね、カンツォーネとかですかね」と言ったら「じゃ、カタリ・カタリなんてどう?」と小林先生がおっしゃるので、僕も「あぁ!いいですね、やりましょうか!カタリ・カタリ!」と言って、まるでかけ合いの漫才ではないのですが、うまく小林先生とお話しが出来て、そして二人でピアノの前に行きアンコールとして「カタリ・カタリ」を演奏させて頂きました。

アンコールのピアノ伴奏をしてくださった小林研一郎先生は、楽譜には無い音を紡ぎ出し、奏でてくださいました。これは先生にしか弾けないという唯一無二の伴奏で、本当に感動的でした。途中ピアノだけの間奏部分で、僕が涙を拭いているのを前の席に座っていたお客様に見られてしまったようでした。泣いてしまった訳ではないのです。自然と涙が流れてきました。なぜかと言いますと…、小林研一郎先生の美しいピアノに耳をかたむけていると、自然と父との思い出がよみがえってきたからです。また、今まで一緒に過ごしてきた仲間が突然亡くなってしまったことも思い出しました。日本フィルでずっと一緒だったファゴットの西森光信さん、公私ともにお世話になったオーボエの小林裕さん、以前、僕がファゴット協奏曲を演奏したとき指揮をしてくださった手塚幸紀先生、皆、突然です。ある日、目の前からいなくなってしまう…。

演奏会が終り、一人になったときこんなことを考えました。「何のために演奏をするのか…」と。僕は、自分が演奏したことによって得られる自己満足ではなく、子供の頃からやってきた音楽、歌を純粋に皆に感じてもらえたら幸せなのかなぁ、と思っています。今回は、仲間と一緒に小林研一郎先生の指揮で、しかもモーツァルトを演奏出来たことがとても良かったと思っています。モーツァルトでのカデンツァは、ウィーンでお世話になったエールベルガー先生のカデンツァを演奏しました、感謝の想いを込めて!

いずれ人間いつかは、ねぇ、亡くなってしまうから。僕は大切な仲間が突然いなくなってしまう経験をしました。とても辛かった。それからは、今まで以上に「やれることを、少しずつコツコツとやろう」と思うようになりました。自分の人生の残り時間を考えると、人から頼まれたことをやるのではなくて、自分で目的をつくって演奏していきたいな、と感じるようになりました。

今までずっと音楽をやってきて、オケでも30年以上の時間がたちました。今回オーケストラ伴奏でモーツァルトを演奏させて頂いたので、今後はピアノとファゴット、オーボエやクラリネットとファゴット、室内楽も積極的にやりたいと思っています。お客様とより近い距離で、僕の歌をお届け出来ればと考えています。まだまだ、たくさんの素晴らしい曲がありますよね、オケとはまた別に。大切な仲間とのアンサンブルもできるかなと思っていて…、ワクワクしています。一年に一回でもそういう機会が持てたら、とても幸せだなぁと思っています。

鈴木一志(すずき・ひとし)

東京音楽大学付属高校、同大学を卒業。卒業後、ウィーンに留学。
東京オペラシティリサイタルホール、銀座ヤマハサロン、JDR(日本ダブルリード)にて、リサイタルを開催。第6回日本管打楽器コンクール入選。
2006年「ベートーベン 七重奏への誘い」2016年「アゴラ〜カスタムウインズ木管五重奏団」CDをリリース。
2019年2月、NHK FM放送 ベストオブクラシックに出演。(カスタムウインズ木管五重奏団)
ファゴットを三田平八郎、霧生吉秀、菅原眸、山上貴司、馬込勇、カール.エールベルガーの各氏に師事。
広島交響楽団を経て、現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席奏者。洗足学園音楽大学非常勤講師。カスタムウインズ木管五重奏団メンバー。

その他のMagazine

//レスポンシブ