【前編】鈴木一志(日本フィルハーモニー交響楽団首席ファゴット奏者)

音楽と言葉

昨年、2020年11月8日に東京芸術劇場にて、鈴木一志氏(日本フィルハーモニー交響楽団首席ファゴット奏者)が、モーツァルト作曲、ファゴット協奏曲を演奏されました。
ソロをつとめた鈴木氏へ演奏会後のお気持ちをうかがいました。

うん、まぁ、確かに、本番は緊張しましたよ…。指揮の小林研一郎先生は、本番当日のリハーサルでも、本当に緻密に弦楽器のバランスを整えてサポートしてくださいました。オーケストラから、弱い音ですけれど死んだ音ではない響を作って「歌って」くださる。ファゴットは、協奏曲でソロを演奏する場合どうしても大きな音が出せませんからね。大きい音を出そうとしてムキになって頑張ると、リードの音がそのまま出てしまったりするので、かえって良くない。

実は、本番前のゲネプロでは、クラリネットの伊藤寛隆さん(日本フィル首席奏者)にお願いをして、客席で全体のバランス聴いてもらいました。そうしたら、伊藤さんが「やっぱり…。そんなに頑張らなくていいですから。もう十分、音は客席に飛んで来ていますよ。頑張るよりも自然に楽器を響かせる感じで、楽に吹いた方がいいですよ!」と言ってくれました。

それまでのリハーサルでは、自分の音が何だかすごく小さいな、ソロなのに大丈夫かな…、と不安でした。それを察してか、本番前に小林研一郎先生が「鈴木さん、大きな音出そうなんて思わなくていいから」と声をかけてくださいました。
本番、ステージに立ったとき、ちょっと気が楽になって演奏に臨むことが出来ましたね。

第一楽章は、確かに演奏に多少キズが入ってしまいました。誰でも、やはり緊張はしますよね、はじめは…。一楽章は、歌ってはいるけれど緊張している中での演奏でした。客席には、僕から直接チケットを購入してくださった200人くらいのお客様(恩師、教え子、多くの仲間、関係者)がいらっしゃっていました。聴きに来てくださった皆様の前で、あまりにもひどい演奏はできないし…、と思っていました。

一楽章の演奏が終わって、二楽章に入る前の少しのインターバルがあいたときに「ちょっと緊張しちゃったよなぁ…」と冷静になれました。「まあ、だけど今の所はそれなりの演奏が出来ているな、よし、これから先の二楽章と三楽章は、やっぱり歌だ!聴きに来てくださっている皆様に僕の歌をとどけたい!」と、気持ちを立て直すことが出来ました。
実は、一楽章のカデンツァは、僕のテンポ設定の中では若干速い演奏になってしまいました。緊張していたのだと思います。しかし、この一楽章と二楽章の間で、長年モットーとしている「歌うこと」に集中をして、そして恩師エールベルガー先生への感謝の想いを込めて、これから先の二楽章と三楽章を演奏しよう!と思いました。
自分の気持ちが「フッ」と切り替わった瞬間でした。

二楽章からは、緊張から解放されて、より一層演奏に集中出来ました。二楽章は、ホルンとオーボエが大切な役割をはたのすのですが、ホルンの丸山勉さん(日本フィル客演首席奏者)とオーボエの杉原由希子さん(日本フィル首席奏者)が、とても素敵な音楽を奏でてくださいました。心から感謝しています。そうなのです、この二楽章から徐々に徐々に音楽がいい感じに前に進んで行きました。そして、僕の思い描いていた歌が歌えるようになっていきました。うん、今、この瞬間、思い通りに歌えていると…。そして、後ろを振り返れば、仲間がしっかりと音楽を奏でくれていて…。丸山さん、杉原さんも一生懸命、演奏してくださっているのが安心感につながりました。

三楽章は、二楽章の流れをそのままに僕の歌を奏でることが出来たかな、と思っています。指揮の小林研一郎先生とは、本当に多くの演奏会を今までご一緒させて頂いてきました。
今回、協奏曲でもご一緒できた事が大きな喜びになりました。

(つづく)

鈴木一志(すずき・ひとし)

東京音楽大学付属高校、同大学を卒業。卒業後、ウィーンに留学。
東京オペラシティリサイタルホール、銀座ヤマハサロン、JDR(日本ダブルリード)にて、リサイタルを開催。第6回日本管打楽器コンクール入選。
2006年「ベートーベン 七重奏への誘い」2016年「アゴラ〜カスタムウインズ木管五重奏団」CDをリリース。
2019年2月、NHK FM放送 ベストオブクラシックに出演。(カスタムウインズ木管五重奏団)
ファゴットを三田平八郎、霧生吉秀、菅原眸、山上貴司、馬込勇、カール.エールベルガーの各氏に師事。
広島交響楽団を経て、現在、日本フィルハーモニー交響楽団首席奏者。洗足学園音楽大学非常勤講師。カスタムウインズ木管五重奏団メンバー。