フレージングを哲学したオーボエ奏者

『ノート・グルーピング オーボエ奏者マルセル・タビュトーに学ぶ』
音楽表現について具体的に書かれた本。
これが抜群に面白い。

著者はファゴット奏者のデイビッド・マクギル氏だ。
マクギル氏は、シカゴ交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、トロント交響楽団で
首席奏者をつとめ、2014年よりノースウェスタン大学の教授に就任し後進の指導にあたっている。
第一線で活躍しているファゴット奏者だ。グラミー賞も受賞している。

マクギル氏は、1980年代にフィラデルフィアの名門カーティス音楽院で学士号を取得した。
本書は、マクギル氏が在学中に学んだ「音楽表現」について体系的にまとめられている。
ファゴットの教本ではない。


カーティス音楽院は、フィラデルフィアにある世界最高峰の音楽大学。
卒業生には、コープランド、バーバー、バーンスタイン、ヨー・ヨー・マ、江藤俊哉、など
世界的な音楽家が名をつらねている。最近では、吉村妃鞠(HIMARI)が有名だ。

創立は1924年、大正13年。翌25年に、フィラデルフィア管弦楽団 首席オーボエ奏者の
マルセル・タビュトー氏がカーティス音楽院に招かれた。
氏は、1954年に退職するまで後進の育成にあたった。
そこで、タビュトー氏は「音楽のフレージング」を教えカリスマ的な指導者となった。


授業には、オーボエ専攻生はもとより、木管楽器、弦楽器、ピアノ…、垣根を越えて
多くの学生がその理論を学ぼうとタビュトー氏のもとに集まった。
もちろん全米におけるオーボエの水準が向上したことは言うまでもない。

著者のマクギル氏が教えを受けた先生方は、
その当時タビュトー氏から直接手ほどきを受けた音楽家たちだ。
マクギル氏は、タビュトー氏の孫弟子ということになる。

「音楽のフレージング」を分析し言葉として本に残す…。
これは、とてもリスクを伴うことだ。
ましてや、オーボエに限らず他の演奏家に、
音楽的な表現方法について言及することは批判の対象になりかねない。

この本に書かれている理論について、賛成の意見もあれば反対の意見も出てくるはずだ。
立場によって、見解は分かれてしまうだろう。

そうではなく、純粋にこの理論を受け止めてみてはどうだろうか。
音楽の本質にせまる一つの手がかりとして…。

たとえば、本書の中で具体的に言及があったこの名曲、
マルチェッロ作曲 オーボエ協奏曲 ハ短調(1962年録音)
オーボエのソロは、ジョン・デ・ランシー。
余談だが、ジョン・デ・ランシーは後にカーティス音楽院の校長をつとめた。

どのように演奏されているのか、表現をしているのか、
私は音源を引っ張り出してきて聴きなおしてみた。

「なるほど~」本文に書いてある通りだ!
フレージングの根本的な要素を噛みしめることができた。
本には譜例も多く理解の助けになる。

とても、面白い!
私はこの本をきっかけにして、
大好きな音楽について思いを深めることができた。

「音楽を表現する」ってことは、どういうことなのか。
演奏の仕方も、聴き方も変わってくる、音楽を自分に引き寄せることができる。

間違いなく名著だ!と思う。

タビュトー氏は「実例がなければ誤解をされる」と考え、
自身でメソッドを書き残すことは望んでいなかったそうだ。
だとしたら、この本は貴重な遺産と言えるだろう。
ファゴット奏者の著者、マクギル氏の功績も計り知れない。

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