時空を超えるコンチェルト(後編)

2018年に楽譜出版社 ヘンレ社から依頼を受けたシェレンベルガー氏は
R.シュトラウスのオーボエ協奏曲「原典版」の出版に携わった。
現在、望みうる最高の形で出版することは全てのオーボエ奏者にとって悲願であった。

自筆のフルスコアとパート譜を正確に照らし合わせる作業が続く。
また、出来る限り最新の研究結果も譜面に落とし込んでいく。
それは、気の遠くなる作業。
並大抵の集中力だけでは、到底なしえない。

それを支えたのは、シェレンベルガー氏の使命感だ。
まるでR.シュトラウスの魂が、シェレンベルガー氏に乗り移ったかのようだ。


シェレンベルガー氏は、1970年代にふとしたきっかけで
この曲のR.シュトラウス自筆の楽譜(複写)を、偶然手に入れている。

しかも、フルスコアとコンデンススコアの両方だ。
当時、複写を手にしたシェレンベルガー氏は、
その後の演奏活動に大いに役立てたことは言うまでもない。

それから約50年後に、この曲の原典版の出版という一大プロジェクトに従事するとは
複写を手にしたその当時は、思ってもいなかっただろう。

何か不思議な縁を感じざるを得ない。


天国のR.シュトラウスはシェレンベルガー氏に
こんなメッセージを送っていたのかも知れない。

R.シュトラウス:あなたの素晴らしい活動、活躍はこちらでも有名だよ。
芸術に対するその姿勢は、かけがえのない物だと思っている。
音楽への紳士な取り組みには好感が持てる、最も信頼しているよ。
この前、ワーグナーと話したけど同じ意見だった。

そんなあなたに、お願いがあるんだ。
忙しいとは思うのだけれど…。

もうじき私の著作権が切れるから、そのタイミングで
この曲の「原典版」を作ってもらえないかな。
私が書いた自筆の楽譜(複写)は、ずいぶん前に手にしているよね。

私はこの曲を晩年の傑作のひとつだと思っているんだ。
ただ、残念なことに1948年に出版した楽譜は、ちょっとね…。

そこで、今まで素晴らしい経験とキャリアと積み重ねてきたあなたに
「原典版」を作ってもらいたいんだ。
出版社はヘンレ社がいいと思うんだ、担当者には、私から声をかけておくから…。

今度、モーツァルトと会う約束をしているから
そのときに渡せたらいいかなぁと思っているんだ。
お願いできるかな?

ミュンヘンにあるR.シュトラウスの実家近くには
1948年創業の老舗楽譜出版社 ヘンレ社があるそうだ。
ちなみに、シェレンベルガー氏も1948年 ミュンヘン生まれである。

前編を読む

2024年11月9日 に 弊社 JDRサロン で行われた「Schellenberger‘s WORKSHOP Vol.12」をもとに構成しています


リヒャルト・ゲオルク・シュトラウス

Richard Georg Strauss(1864年 – 1949年)
ドイツの作曲家・指揮者。後期ロマン派からモダニズムへの橋渡しをした作曲家。交響詩、歌劇(オペラ)の分野で傑作を生み出す。代表作には、交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」、歌劇「サロメ」など多数。指揮者としても高い評価を受ける。自作の初演に加えて、モーツァルトやワーグナーの解釈でも超一流。晩年は戦争の影響を受けながら作曲を続け、亡くなる直前まで新作に取り組んでいた。オーボエ協奏曲は、1945年に作曲された晩年最高傑作の一つ。

ハンスイェルク・シェレンベルガー(オーボエ、指揮)
Hansjörg Schellenberger,  oboe & conductor(1948年 – )
世界的オーボエ奏者の一人、指揮者。1948年生まれ、13歳からオーボエを始る。1971年ケルン放送響のオーボエ奏者に就任、1975年~1980年まで同団ソロ・オーボエ奏者を務める。1977年からベルリン・フィルにエキストラとして参加。1980年1月から2001年夏までベルリン・フィル ソロ・オーボエ奏者。退団後は、指揮者、ソリストとして大活躍。国際オーボエコンクール・東京 審査委員長。レコード、CDの録音は50枚以上にのぼる。

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