「行ってみました！」と最近のことのようなタイトルですが、もう6年も前のことです。
アトリエJDRスタッフの吉本は、2018年の11月にフランスのロレー社の工房にて研修させていただきました。
初めてのヨーロッパ、初めての一人での海外旅で非常に緊張したのを覚えています。
ロレー社の工房はフランスのパリ市内Rome（ローム）通りにあります。
Rome通りにはロレー社以外にもピアノや管楽器、弦楽器、楽譜専門店が多くあり・・・
というより、楽器屋が８軒連続で並んでいたり、フルート専門店が隣同士で２軒続いていたりと、「音楽のための町」にロレーはありました。
パリの工房では楽器の最終組み立て、調整や、ユーザーへの直接対応をおこなっています。
2週間の研修は、技術長であるオリヴィエ氏の指導のもとでおこないました。
研修では主に、工場から届けられた楽器の組み立て、タンポやバネ、コルクの取付工程です。
おおまかな調整方法は、JDRでおこなっている調整と同じですが、接着剤やチェック方法で異なるところがあり、
最初はかなり苦戦しました。
↑Olivier Chanu de Gourdon氏
特に、キーにコルクを取り付ける作業は普段からやっている簡単な作業ですが、ロレーでは伝統的な
シェラック（温めて溶かし、冷やすと固まる接着剤）を使用しており、このシェラックを使った作業に苦戦しました。
シェラックはタンポを取り付ける際にJDRでも使用している接着剤ですが、キーコルクを付けるにはごく少量を塗り、
冷えないうちにコルクを貼りつけなければならなく、思った以上にこの作業は難しかったことを覚えています。
その他にも、ロレーでの割れ修理の方法や、気密チェック、楽器が変化して内径が狭くなってしまった際の対処方法を学びました。
それらは今でもJDRの楽器調整に活かされています。
また、社長であるアラン氏にも時折、指導していただきました。
社長でもあり、熟練の技術者でもあるアラン氏の作業は、非常に手際が良く、無駄がなくて美しいものでした。
彼は私に対しても非常に真摯に向き合ってくださり、ロレーオーボエに対する要望やお客様の声を聞きたい、と私の話にもしっかりと耳を傾けてくださりました。
↑Alain de Gourdon氏
最も歴史のあるオーボエメーカーであるロレー社は、非常に伝統を大切にしています。
研修中の会話の中で何度も「traditional」という言葉を耳にしました。
そして何よりも、彼らはロレーユーザーを大切にしています。
パリの工房にもお客様がよくいらっしゃっており、楽器の調整や新品の楽器の試奏をおこなっていました。
楽器の伝統だけでなく、彼らがフランスという国、パリという街を大切にしている気持ちも強く感じました。
「美術館は行ってみた？おすすめの美術館を教えてあげるから行ってごらん」
「マカロンは〇〇のものがおいしいよ」
と、会話の中から音楽以外の文化も知ってほしいという思いを受けたので、研修後の空いた時間や休日は、観光地となっている聖堂や美術館を巡りました。
こういった文化や芸術への理解がロレーの楽器の特徴である、キーメカニズムの精密さや、音の優美さに出ているのだと思います。
伝統を大切にしているロレー社ですが、新しいものにも積極的に取り組んでいます。
2013年には「エトワール」モデル、そして140周年記念の2021年には「140」モデルを開発しています。
これらのモデルは、それまでのロレーとは違ったコンセプトで作られており、特に最新機種である「140」モデルは、
元々ロレーを使用していなかった方々でも扱いやすいよう、様々な改良が施されています。
特に音色と、程よい吹奏感は非常に素晴らしい楽器です。
そして、研修中に指導してくださったオリヴィエ氏が来月、12/8(日)から来日されます。
12/8(日)、12/9(月)の２日間にわたって開催するF.Lorée Special Day 2024ではアントワープ交響楽団 首席奏者のエリック・スぺレール氏による、公開レッスン、ショートリサイタルの他、オリヴィエ氏による楽器調整会、展示試奏会がおこなわれます。
展示試奏会ではJDRのロレー楽器だけでなく、ロレー社から厳選した楽器も持ち込まれ、多くの楽器を比較試奏することができます。
製作者であるオリヴィエ氏と、ロレーオーボエのテスターであるエリック・スぺレール氏とともに楽器を試奏できる、またとない機会です。
ぜひご来場ください。
